インナーの歴史|身体を服に合わせる時代から、身体に寄り添う時代へ
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私たちが毎日身につけているインナー。
ブラジャー、ショーツ、肌着、キャミソール、ガードル、スポーツブラ、冷感インナー。
今では当たり前のように選んでいるこれらのアイテムも、長い歴史の中で少しずつ形を変えてきました。
現代の女性用インナーの基本形は、ヨーロッパの服飾文化から発展したブラジャー、ショーツ、スリップ、ガードルなどの体系を土台にしています。
ただし現在のインナーは、ヨーロッパの伝統をそのまま受け継いでいるというより、アメリカの量産・ブランド文化、アジアの製造技術や機能素材、日本的な快適性・清潔感への感覚などが重なり、世界標準の衣類として発展してきたものです。
インナーの歴史は、ざっくり言うと、「隠すもの」から「身体を矯正するもの」へ、そして「快適に支えるもの」から「自分を整える・表現するもの」へ 変化してきた歴史だといえます。
インナーの歴史:大きな流れ
| 時代 | 主なインナー | 役割 |
|---|---|---|
| 古代〜中世 | リネンの肌着、シュミーズ的なもの | 汗・汚れから衣服を守る、衛生 |
| 16〜18世紀 | ステイズ、コルセット、ペチコート | 体型を時代の理想に近づける |
| 19世紀 | コルセット、クリノリン、バッスル | ドレスのシルエットを作る構造材 |
| 20世紀前半 | ブラジャー、ガードル、スリップ | コルセットから解放され、動きやすさへ |
| 20世紀後半 | ナイロン、ポリウレタン、ワイヤーブラ、スポーツブラ | 伸縮性・機能性・量産化 |
| 1990年代以降 | 見せるインナー、補整下着、シームレス、機能性インナー | ファッション化・快適性・自己表現 |
| 現代 | ノンワイヤー、吸汗速乾、冷感、フェムケア、ジェンダーレス | 身体へのやさしさ、生活課題の解決 |
1. 最初のインナーは「衛生用品」だった
もともと下着は、現代のように「美しく見せるもの」ではありませんでした。
最初の大きな役割は、肌と衣服の間に置く衛生用品としての役割です。
昔の外衣は高価で、現代の服のように頻繁に洗えるものではありませんでした。そこで、肌に直接触れるリネンの肌着を着て、汗や皮脂を受け止める必要がありました。
つまり、インナーはまず 身体を守るもの であり、同時に 高価な衣服を守るもの だったのです。
画像:Tunic, probably 5th century, The Metropolitan Museum of Art.
古代地中海世界で重ね着されたチュニックの一例。
この段階では、インナーはほぼ「見えないもの」でした。
人に見せるための服ではなく、肌と衣服の間で役割を果たす、実用的な布だったといえます。
現代の感覚でいえば、汗取りインナーや肌着に近い考え方です。
装飾よりも、清潔さ。
見た目よりも、衣服を長持ちさせること。
ここからインナーの歴史は始まります。
2. コルセットの時代:身体を服に合わせる
16世紀以降のヨーロッパでは、女性の身体を時代の理想的なシルエットに近づけるため、ステイズやコルセットが重要になります。
コルセットは、胸・腰・胴体の形を整え、服の外側に美しいラインを作るための道具でした。
Victoria and Albert Museumは、ヴィクトリア朝の下着について、コルセットが腰の形を整え、クリノリンやバッスルがスカートのシルエットを支えたと説明しています。
ここで重要なのは、当時のインナーが 快適さよりも、社会が求める身体の形を作ること に重点を置いていたという点です。
つまり、インナーは「身体のため」というより、かなりの部分で 服のため、社会的な見た目のため に存在していました。
現代の私たちは、インナーに「ラクさ」「肌ざわり」「締めつけにくさ」を求めます。
しかし当時は、インナーによって身体を整え、外側の服を美しく見せることが重視されていました。
身体が服に合わせる時代だったのです。
3. 19世紀:インナーは服の“構造材”になる
19世紀になると、女性のドレスはさらに大きく、立体的になっていきます。
大きく広がるスカート、後ろに張り出したシルエット、細く見せるウエスト。
画像:The Metropolitan Museum of Art, “Ensemble,” ca. 1855, Public Domain.
19世紀中頃のドレス。インナーは、服のシルエットを作るための構造材でもありました。
この時代のインナーは、もはや単なる肌着ではありません。
服の形そのものを作る建築的なパーツ でした。
| アイテム | 役割 |
|---|---|
| コルセット | 胴体・腰・胸の形を整える |
| クリノリン | スカートを大きく広げる |
| バッスル | 後ろ姿にボリュームを出す |
| ペチコート | スカートの形や重なりを整える |
この時代のインナーは、「内側にある服」ではなく、外側のファッションを成立させる骨組み でした。
たとえるなら、建物の中にある柱や梁のようなものです。
表からは見えなくても、それがなければ全体の形が成り立たない。
インナーは、女性の服装を内側から支える構造物だったのです。
4. 20世紀前半:コルセットからブラジャーへ
20世紀に入ると、女性の生活や服装は大きく変わります。
都市生活、仕事、スポーツ、自転車、戦争による社会参加。
女性に求められる動きが増え、硬いコルセットは時代に合わなくなっていきます。
1920年代には、コルセットよりも軽く、肩から支えるブラジャーが広がっていきます。
The Metropolitan Museum of Artは、1920年代のバンドゥ型ブラジャーについて、従来のコルセットが腰から胸を支えていたのに対し、肩ひもで支える構造になったと説明しています。
ここでインナーの思想が大きく変わります。
身体を締めて服に合わせる
から、
身体を支えながら動きやすくする
へ。
これは、インナーの歴史における大きな転換点です。
もちろん、すぐに現代のような快適なブラジャーになったわけではありません。
それでも、身体を硬く固定するコルセットから、より軽く、より動きやすいインナーへ向かう流れが始まりました。
5. 20世紀中盤:素材革命が起きる
インナーの歴史で非常に大きな意味を持つのが、素材の変化です。
綿や麻中心だった時代から、ナイロン、ポリウレタン、伸縮素材、合成繊維が登場します。
これにより、インナーは大きく進化しました。
画像:Smithsonian, National Museum of American History, “Experimental stockings,” 1937,
1937年にユニオン・ホージャリー社がデュポン社のために製作した、最初期の実験用ナイロンストッキング
| 素材・技術 | インナーへの影響 |
|---|---|
| ナイロン | 薄く、軽く、量産しやすい |
| ポリウレタン | 伸びる、戻る、フィットする |
| ワイヤー | バストを立体的に支える |
| 成型カップ | 形を安定させる |
| シームレス技術 | アウターに響きにくい |
| 吸汗速乾素材 | 汗・ムレ対策 |
| 接触冷感素材 | 夏の不快感対策 |
ここからインナーは、単なる衣服ではなく、繊維技術の製品 になっていきます。
薄くする。
軽くする。
伸ばす。
戻す。
支える。
汗を逃がす。
肌にやさしくする。
服に響きにくくする。
現代のインナーに当たり前のように備わっている機能は、素材と技術の進化によって実現されてきました。
この時代以降、インナーは「形を作るもの」であると同時に、生活の不快を減らすもの へ近づいていきます。
6. 1990年代以降:インナーが“見えるもの”になる
1990年代以降、インナーとアウターの境界は曖昧になります。
キャミソール、スリップドレス、見せブラ、ロゴ入り下着。
それまで隠すものだった下着的なアイテムが、ファッションとして外に出ていくようになります。
京都服飾文化研究財団の解説では、1990年代後半には下着がアウターに近づき、両者の区別がほとんど消えるような流れがあったとされています。
ここでインナーは、隠すものから、
見せるもの、選ぶもの、自分を表現するもの へ変わります。
それまでのインナーは、外から見えないことが前提でした。
しかし、1990年代以降は「見えてもよい」「あえて見せる」「ファッションとして楽しむ」という感覚が広がります。
これは、インナーが単なる実用品ではなくなったことを意味します。
インナーは、身体を整えるもの。
気分を変えるもの。
自分らしさを表現するもの。
そうした意味を持つようになっていきました。
7. 現代:締めつけから“快適さ”へ
現代のインナーの大きなテーマは、かなり明確です。
我慢しないこと です。
昔のインナーは、社会の理想に身体を合わせるものでした。
しかし現代は、身体のほうを中心に考えるようになっています。
たとえば、現代のインナーは次のような悩みに応える形で進化しています。
| 現代の悩み | インナーの進化 |
|---|---|
| ワイヤーが痛い | ノンワイヤーブラ |
| 汗でムレる | 吸汗速乾・メッシュ素材 |
| 夏に暑い | 接触冷感インナー |
| 肩ひもが食い込む | 幅広ストラップ |
| カップが浮く | 伸縮カップ・ソフトカップ |
| 締めつけが苦手 | リラックスブラ |
| 運動時に揺れる | スポーツブラ |
| 服に響く | シームレス・モールドカップ |
つまり現代のインナーは、
身体を矯正する道具から、生活の不快を解決する道具へ 変わっています。
特に日本では、快適性、清潔感、肌ざわり、ひびきにくさ、ムレにくさといった価値が重視されてきました。
欧米式のブラジャーやショーツの体系を受け入れながらも、日本の生活文化に合わせて、より日常的で、より繊細なインナーへ発展してきたといえます。
現代のインナーは、世界標準でありながら地域ごとに進化している
現在、グローバルに見ても、女性用インナーの基本形は欧米式の体系が主流です。
ブラジャー、ショーツ、スリップ、ガードル、スポーツブラ。
これらの分類や基本構造は、ヨーロッパの服飾文化から発展し、アメリカの量産・ブランド文化によって広がりました。
しかし、現代のインナーは「ヨーロッパの伝統そのもの」ではありません。
そこには、アジアの製造技術、機能素材の進化、日本的な快適性や清潔感への感覚、そして現代の多様な身体観が重なっています。
かつてインナーは、身体を服に合わせるためのものでした。
しかし今は、服とインナーが身体に寄り添う時代です。
締めつけない。
ムレにくい。
痛くなりにくい。
自然に整える。
自分らしく選べる。
インナーは、見えない場所で、毎日の気分や快適さを支える存在になっています。
ルシアンは、時代に寄り添うインナーを提案し続けます
インナーは、時代とともに役割を変えてきました。
かつては衣服を守るための肌着であり、ある時代には身体を理想の形に整えるためのものでした。
そして現代では、締めつけにくさ、肌ざわり、ムレにくさ、動きやすさなど、毎日の暮らしに寄り添う快適さが求められています。
女性の身体も、暮らし方も、服装も、時代とともに変わっていきます。
だからこそインナーも、ただ形を整えるだけではなく、一人ひとりの毎日を少しでも心地よくする存在でありたいと考えています。
ルシアンはこれからも、時代の変化と女性の声に向き合いながら、身体にやさしく、暮らしに寄り添うインナーを提案し続けます。
参考資料
- Victoria and Albert Museum「Corsets, crinolines and bustles: fashionable Victorian underwear」
- The Metropolitan Museum of Art「Twentieth-Century Silhouette and Support」
- Kyoto Costume Institute「Fashioning Women’s Underwear」